植物は〈知性〉をもっている 20の感覚で思考する生命システム

植物は〈知性〉をもっている 20の感覚で思考する生命システム

2015.12.12、三省堂書店池袋店にて購入、紙媒体。久しぶりの海外生命科学系ノンフィクション。(あまり成功した立場ではない)職業柄ゆえ、少しでも仕事の匂いがする本は避ける傾向があるのだった。なぜ、手を出したかというと装丁に惹かれたのだ。すなわち、ジャケ買い。また本書は、ハードカバーとしては、軽い重量を実現している。かといって紙質が悪いわけではない。iPad Airより軽い事は、電子媒体も同時販売されているのに紙版を選ぶ理由の1つとして十分だった。

この手の海外生命科学系ノンフィクションは、読んでいて(=手に持っていて)賢くなれたような気がするし、シャレオツなジャケは意識高い系アピールにはもってこいであろう。ただし、一般人が読了することはまずないと言っていい。その最大の原因が、文章の読みにくさ。翻訳者は様々な工夫をしているのだろうが、その国独特のジョーク、ほとんど改行のない連続したセンテンス、複雑怪奇な多くの人名が改善されているのを見たことがない。本書を斜め読みした結果、そいつらが比較的軽度だったので約1900円をその場で支払う決断をしたのだった。

読み始めると、植物に知性がある事を示すデータを列挙する前に、我々の「植物感」を再認識させるところからスタートする。例によって例の如しで、いつものチャールズ・ダーウィン先生が登場してくるありきたりから入っていくが、少し読み進めると本書独特の問いかけが何度も開始される。すなわち、我々は植物を格下の生物、あるいは生物として認めてさえいないのではないか? だってそうでしょう、草だよ、植物だよ、そこいらに生えてるペンペン草に知性だよ、バカ言っちゃいけないよ。

もちろん、植物は格下なのではない。同等? いや、ニンゲンは植物なしでは絶対に生きることができない! そこを認めさせるために序章が走りだす。しばらく読み進めると、空恐ろしくなってくる。実のところは、知性を持った植物に人間は生かされているのでは、知性を持った植物に制御されているのではないか、と。

ここまで、高校生物の知識がない読者でも、さらりと一気に読ませてくれる。繰り返すが、海外生命科学系ノンフィクションにしてはとても読みやすい。程なく、自身が固く信ずる「植物感」が揺らいでいき、世界がふわっと逆転する感覚が楽しめる。これは上質なミステリの終盤で味わえる感覚と同じだ。普段、生命科学に接する機会がない大兄でも大丈夫だ。本書は教養本ではあるがエンタメ本として、とても優秀だ。読み進めると、時間の流れが加速すること間違いなし。普段、遺伝子とタンパクの色眼鏡でしか生命を見ていない研究者の大兄も大丈夫だ。植物が知性を持つという「神に逆らう仮説」を命がけで証明しようとした先人たちの姿に、心打たれること間違い無し。冬休みの課題図書として、皆さんにお勧めする。2015.12.26読了。