2016.1.29、地元書店で購入、紙媒体。物語の男女関係の中で、僕が大好きな関係がある。その関係が好きという事は、かなり特殊な性癖持ちかも知れないと密かに心配している。その関係を一言ではうまく言い表すことができないので、カップリングの例を挙げてみよう。
Xファイルのモルダー&スカリー、狼と香辛料のホロ&ロレンス、BLACK LAGOONのレヴィ&ロックなどなど・・・だ。このカップル達は、決して友人関係ではない。しかし、絶対に恋人関係でもない。また、よく言われるような友達以上恋人未満の関係でもない。さらに相棒関係でもないと思う。恋人や友人や相棒などといった将来的に壊れる可能性がある関係ではなく、魂の最奥で結びついている関係とでも言ったらいいのだろうか。お互いの半身を共有しているとでも言えばいいのだろうか。

櫻子さんの足下には死体が埋まっているシリーズの九条櫻子&館脇正太郎のカップルもそんな関係の典型例だ。本シリーズをご存じない方のために、ごくごく簡単に設定を紹介しておこう。本シリーズは、近年になって急速に出版数が増加してきたライトミステリに分類される。ライトノベルとの差異はここでは論じないが、イラスト入りでメディア展開されやすい事は確かな共通項だろう。本シリーズも昨年にテレビアニメ化されているので、一風変わったタイトルを聞いた方もいるだろう。舞台は北海道・旭川。探偵役は、没落した資産家のお嬢様で、骨に異常な執着と愛着を持つ「標本師」の九条櫻子(アラサー、婚約者あり)。彼女は当然のように美人ではあるが、社会性を全く持たない傍若無人な変わり者で、巨大な屋敷に膨大な数の骨格標本とばあやさんとともに半隠遁生活を送っている。助手役は心優しい良識派の男子高校生である館脇正太郎。二人は運命的というよりもさらに深い出会いで結びつき、数々の事件に巻き込まれていく。標本師である櫻子さんの捜査方法は、当然だが「骨」を主体としたものになる。それぞれの事件に繋がりはないように見えるが、実は猟奇的なシリアルキラーが全てを牛耳っていて・・・。

シリーズ9冊目となる本書は、助手役の正太郎とサブキャラクタの警察官・内海洋貴が主人公となっており、いわばシリーズの番外編に位置づけられる。いつものように中編集となっており、「狼の時間」は集団自殺をするためにwebを通じて集まったグループに正太郎が、(不本意ながら)潜入するところから始まる。もちろん、正太郎は自殺する気など無いのでなんとか集団自殺を阻止する方向で物語は進んでいく。自殺志願者たちと正太郎は1台の車に乗り込み、死に場所を求めることになる。練炭自殺のために炭を買い、人気のない山へ車は入っていき着々と集団自殺へのカウントダウンは進んでいく。やがて、本当に死ぬ気がないものが脱落していき、正太郎の正体も暴かれていくが・・・。集団自殺の異常な心理を描いた作品は本書の他にもあった気がするが、死ぬ気が無い者(正太郎)から見た恐怖と焦りは本書が随一であろう。自殺志願者の1人に美少女が含まれており、発作的に彼女に自殺を止めさせようとする展開はちょっとベタすぎか。
「午前四時のノック」は打って変わって、コミカルな内容となっている。おっちょこちょいだが熱血漢の人情派警官である内海はシリーズを通して櫻子さんにいじられる「無能な警察代表」のキャラクタだが、それが更に極まってきた。あろうことか、櫻子さんの胸に意図的に抱きついてバストサイズを推測しようとした彼に「幽霊」の恐怖が襲いかかってくる。幽霊から逃げようとして借りようとした新しい部屋は、事故物件で幽霊が出る部屋だったのだ・・・。事故物件に関する措置(家賃の支払など)が興味深い。幽霊の正体は内海&正太郎では解決できず、最後の最後で櫻子さんが登場してくる。

本書は番外編であるが、冒頭で述べた「魂の最奥で結びついている関係」の描写は健在だ。特に「狼の時間」で自殺志願者グループから正太郎を救出する櫻子さんの行動は熱いの一言。本シリーズを既読の方は、安心して楽しんで欲しい。一方で、シリーズ9冊目ともなると過去の事件のキャラクタが多数登場してくるため、シリーズ未読の方にはお勧めできない。シリーズのどこからでも読めるとテレビCMでは謳っているが、やはり1冊目から読むべきであろう。2016.3.20 読了。