読書漂流 2021

2021年の読了リストと感想。今年から日記記事とは独立してお送りしてみます。わたくしbajaにとって読書は「娯楽」です。よって、人生のためになる本やらお勉強の本などは読んでおりませんです。エンタメ作品だけってことですよ? では、長めの読んだ!! をどうぞ。

7月7日の奇跡(喜多嶋隆)、210102読了★ いつものモウロク爺さん喜多嶋ワールド。もう酷くて笑ってしまう。今回は、筆者が最も苦手とするセックス描写に取り組んでおり、チャレンジ精神は素晴らしいと思う。しかしなぁ。痛々しくて読むのが辛い。さらに、ヒロインを精神科医にしたのも、初めてだろう。そのチャレンジ精神は素晴らしいと思う。しかしなぁ。痛々しくて読むのが辛い。

人生は凸凹だからおもしろい 逆境を乗り越えるための「禅」の作法(枡野俊明)、210210ぐらいに読了★★★ 禅のラノベ。筆者は、禅の庭をデサインする専門家だけあって、禅の美について詳しくわかりやすく解説してある。(1)不均整(2)簡素(3)孤高(4)自然(5)幽玄(6)脱俗(7)静寂の7要素は覚えた。歴史の知識も出てくる。お茶の作法と禅の結びつきから千利休など、日本史を戦国時代と幕末の歴史小説しか知らないわたしにとっては、新鮮だった。

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オードリー・タン 天才IT相7つの顔(アイリス・チュウ、鄭仲嵐)、210124ぐらいに読了★★★ たまには流行りものも読まなくちゃなぁと手を出してみた。同じ天才のスティーブ・ジョブズよりも人格者で穏やかではある。ふたりともにテクノロジと芸術が好きで、イカれているという基本設定は変わらんが。台湾が本書に書いてある通りなら、日本は決断速度と改革の力において敵うはずもない。民主主義2.0という感じで、Covid-19に太刀打ちできたのも解る。日本人は二階さんの料亭の味に全てを委ねておけばいいから、そのままそのまま。

ババヤガの夜(王谷晶)、210211読了★★ バイオレンスアクション「ババヤガの夜」は、本の雑誌ライタである釜炊き目黒ならぬ北上次郎氏大絶賛記事にて釣られ買いした。おお、確かに熱いな。読ませるぞ、これは。あれれれれ、もう80%程は読んじゃったのですが、これはいったい(汗。この間、1時間弱。それも艦これをやりつつの読書だ。おおーい、これで1650円は高いぞ(図書カード併用のため実質は650円)。結局、トータル90分ぐらいで読み切ってしまった。悪くはないが、わたしが編集者だったら、それらしい絵師を探してラノベで出すなw ここ10年で急速に増えてきた映像化前提の作品だろ、これ。

みかづき(森絵都)、210310ぐらいに読了★★★★★ 学習塾経営の世界を描いているそうで、面白いと各所で絶賛されていた作品。分厚いハードカバーと価格に怯んでいたが、ようやくブックオフにて確保した。なるほどね、塾という業界が誕生する頃から描いていくのか(昭和36年)。登場キャラのアクが強く、映像向きかも知れないな。読みやすいが描写が軽すぎることもない。ググると、2019年にNHK総合の「土曜ドラマ」にて、既にテレビドラマ化されておりました。個人の学習塾が舞台だが、親→子→孫と経営が受け継がれ、理念は変質していく。まるで大河ドラマジョジョのように。この間、常に目をつけられ敵対していくのが文科省。さらに、ライバル塾との仁義なき戦い。「教育」とはハマる仕事という言葉に深く同意だ。エンタメ作品としても日本の教育論としても、最高に楽しめて興味深かった。

サイドシートに君がいた(喜多嶋隆)、210417読了★★★★ 読み逃していた喜多嶋隆作品を古本屋で発掘したときの喜びは最高だ。本作もブックオフにてひっそりと余命を送っていたところを救出した。アクション満載のドタバタ喜多嶋ワールドも好きだけど、真骨頂はこの手の短編集でしょう。The Days We Drove Together. 喜多嶋隆の全作品においての共通テーマである「生きる流儀(ウェイ・オブ・ライフ)」が強く描かれる。読後は勇気をもらえるが、同時に切なさとほろ苦さがたまらない。

真説・佐山サトル タイガーマスクと呼ばれた男(田崎健太)、210503読了★★★★ 華々しくタイガーマスクとして活躍した期間はわずか2年弱だったんだな。その2年弱が、わたしの愚かで多感な少年時代の真っ只中と重なっていた。本書の前半1/4ぐらいが、胸のすくようなタイガーマスクの快進撃に充てられている。「中の人」こと佐山サトルは、仕事でやらされていただけだったが。「タイガー後」からが本書のメインだな。巌流島後の宮本武蔵(その後の武蔵、というやつですな)を彷彿させる。興行の失敗、パートナの裏切り、湧き出てくる詐欺師たち、反社との関わり、常にチラつくアントニオ猪木の影、プロレスから完全脱却して総合格闘技へ、そしてそれらの全てが噛み合わない原因は経営、すなわち金だ。カネ、カネ、カネ。何がなくとも金。経営の事が全く解らないかつ興味がない格闘バカの佐山サトルが虎のお面を被らされた時点で、悲喜劇が始まった。

B♭ しおさい楽器店ストーリー(喜多嶋隆)、210504読了★★ ギターの材料(使用する樹の種類)を中心に、家具職人の頑固爺さんが絡んでくる。相変わらず従兄弟同士の際どい関係を描きたいのは変わっておらず。いつも通りの喜多嶋ワールドなんだが、おかしな表現や文章もいつも通り。何だよ、時速22ノットというのは。フネを所有しているんですよね、大先生は。まさかのエアプなのか??

宮本武蔵(津本陽)、210509読了★★★ 前半の創作部分である子供時代の武蔵と、後半の歴史資料を元にした大人の武蔵とのキャラとストーリにギャップがあり過ぎで、ちくはぐさを覚えた。数々の「武蔵作品」が世にはあるが、本作の武蔵はちょいとメンタル弱めで最後まで悟りきれていない印象を受ける。剣戟の場面は、作者の津本陽氏が卓越した剣士であったことからであろう、リアル一辺倒。つばぜり合いのチャンバラは無く、ほぼ一撃でケリがつく。

薩南示現流(津本陽)、210607読了★★★ 鹿児島弁の描写に全てが集約されているといっていい。作者の津本陽氏は、歴史上の人物にリアル指向で方便を喋らせる事で有名だそうだ。そして、わたしは鹿児島にルーツがあるので鹿児島弁が解るのである。本作の鹿児島弁は、ほぼ完璧だと思う。特に敬語がきっちりとされているのは驚き。鹿児島弁の敬語は特に難しいのだ。示現流という流派は、攻撃一辺倒で無骨かつ野蛮というイメージだが、元々は鹿児島の剣ではなくお上品な京都の剣だというところからスタートしているのはお流石。これは作者が卓越した剣士であることからの、厳しいこだわりの1つなのだろう。

ショートショートBAR(田村雅智)、210624読了★ 月の音色リスナーにはお馴染みのショートショート作家である田丸雅智。購入するのは初めてだ。つまり、これまでは月の音色の朗読でしか知らなかった。文庫版の解説は、声優・大原さやか様。うーん、面白いかな、これ(火の玉ストレート)。真ん中辺りまで読み進めたが、全てオチが予測できたのだが。ショートショートの醍醐味である「ああ、そういう事だったのか!?」が無い・・・。月の音色で朗読すると面白くなるのは認めるが、それは大原さやか様の演技のおかげと思え。

東京ホロウアウト(福田和代)、210719読了★★★ 物流がテロの標的となるサスペンス。これに東京五輪と新型コロナが被さって、2021年7月の社会情勢と見事にシンクロしている。長距離トラックの運転手たちが一致団結して悪に立ち向かうパターンは、その昔の「トラック野郎シリーズ」で既にあるんだよな。さすがに今の若い人たちは知らないだろうしもわたしだってその世代ではないが。東京の物流。ほんの1-2日でも荷物が届かなくなると食料供給が無くなり都市として死ぬ。人口や食料の数値がきちんと示されており、巻末には参考文献リストあり。リアルだ。物流は入るだけではない。出る、すなわちゴミ処理も滞ると1-2日で都市として死ぬ。新製品の開発には世界から称賛の目が向けられるが、新製品は必ずゴミとして処分される。その際にお金を出すことへの理解は無い。

フィンランド人はなぜ午後4時に仕事が終わるのか(堀内都喜子)、210723読了★★ 当然といえば当然なのだが、何から何までフィンランドマンセーが続く。ワークライフバランスを始めとしてフィンランドには欠点が無く、皆んなが幸せである夢の国として延々と紹介が続く。働き方に関して、4時に終わる、休みがたくさん、退勤後はアウトドア趣味、勉強、スポーツで幸せ幸せ。だが、これはフィンランド人全員に当てはまるのか? フィンランド人にはエッセンシャルワーカを始めとする融通の効かない職業は存在しないのか?

侠飯7 激ウマ張り込み飯編(福澤徹三)、210809読了★★★ 恒例の柳刃組長世直しグルメ旅。今回は、変則的な始まり方となっている。紹介される料理はサブタイの張り込み飯とはほとんど関係ない。安い食材を中心にウラ技的な工夫で美味くするいつものパターン。それがいい。任侠の様式美も勧善懲悪ストーリも健在。張り込みがシチュエーションだけに、物語の動きが鈍いのは仕方ないか。

インジョーカー 組織犯罪対策課 八神瑛子(深町秋生) 210919読了★★ 八神瑛子ねぇさんの胸のすくような活躍を描くシリーズ最新刊。面白いけどそろそろネタ切れっぽいな。いや、ネタ切れも何も前作で完結したのを無理に引き伸ばしているのが見え見えなんですけど。暴対法によって落ちぶれつつあるヤクザと勢いをましているベトナム人マフィア、中国人マフィアの対比がいかにも現代的。

ツベルクリンムーチョ(森博嗣)、211006読了★★★ いつもの捻くれエッセイシリーズ。時事ネタは基本的に扱わない森博嗣だが、コロナ禍については書かざるを得なかったようだ。そのコロナについての考えや対策は、いつもの鋭さや斜に構えた物が無く一般的な事しか言及できていない。しかも抽象的ではなく、具体的となっている。さしもの森セソセイにも予測がつかないことだらけですか。ステイホームについては、予想通りだった。すなわち、自分は数十年前からインターネットに生活基盤を依存しており、元からステイホームだぞ、という。

潮風キッチン(喜多嶋隆)、211015読了★ 喜多嶋隆の飲食描写は定評があり、ファンも楽しみにしている。今回は久しぶりの料理店を描いたもの。どうやら喜多嶋セソセイはLINEを始めたようで、ヒロインが盛んにLINEでやり取りする様子が、しつこく痛く書かれている。SDGs方面の描写もあって、流行り物は頑張って取り入れたようだ。肝心の料理描写は、期待外れだった。内容的には、いつもの喜多嶋ワールドで永遠なるマンネリ。

ノルウェイの森(村上春樹)、211107読了★★★ これまで手を出した事のないメジャな作家にチャレンジしてみようという試みで読み始めた。世の熱狂的な「ハルキスト」なる者たちがどういった物語を読んでいるかにも興味があったし。後に知ったのだが、最初に読む村上春樹作品としては、最も適さない作品だそうだ。彼の作品群の中では異色であり、代表作とはとても言えないそうな(しかしベストセラー)。どストレートに感想を一言で表すと「少しカッコをつけておしゃれな音楽や酒といったアイテムを散りばめたレディースコミック」だった。話はモロに少女漫画で、そこにセックス描写が加わる。村上春樹ってこんなに性的な事を書くのだね。何なのよこれ。陳腐にしか思えない物語だったが、文章または筆力と呼ばれるものは、凄いものがあると解った。行間がびっしりと詰まった箇所が連続しても、なぜかスルスルと読み進めることができ、かつ内容が頭に入る。最も驚いたのが、レディースコミックもどきを読んだ後に、もう1作だけでも村上春樹を読んでみたいと思った事だ。

われは歌えどもやぶれかぶれ(椎名誠)、211127読了★★ 帯にコロナ禍が云々と書かれていたので、椎名隊長がどう言及するかと興味津々だった。しかし、本書は2018年の週間連載をまとめたもので、コロナ禍には届いておらず。帯に騙された。コロナについての言及は文庫のためのあとがきに記されていた。なんと、椎名誠は新型コロナに感染して入院していたそうだ。その顛末は、これから出る本に詳しく書かれるだろう。本書の内容はいつも通りだ。老化によって長期の取材旅に出られなくなったので、ネタは使い回しが多い。椎名のファンであったら知っている話ばかりだ。大盛りラーメンが食べ切れなくなった、ピロリ菌の除菌をした、足腰が弱ってきたなどの老化ネタが新しい。

同志少女よ、敵を撃て(逢坂冬馬)、211213読了★★★★ 独ソ戦の最中に母を殺され村を焼かれたロシア人少女が、狙撃手(スナイパー)として育てられ、母の仇であるドイツ人狙撃手と母を死体蹴りして村を焼き自分を狙撃手に仕立てあげた美貌の女教官に復讐するというのが帯に書かれたあらすじ。狙撃手が育てられる専門課程の描写が細かく興味深い。いわゆる「修行」のシーンだ。また狙撃手どうしの戦闘描写が、文章を読むだけで鮮やかに目に浮かぶ。面白いアクション全てに共通していることだが、ケレン味とリアリティのバランスが絶妙だ。人が物質に変化していく様(=死)が淡々と描かれていくが、胸躍るものが強く感じられ夢中でページを捲ってしまう。第二次大戦で女性を後方支援ではなく前線の戦闘員としたのはソ連だけということで、占領地での女性への性犯罪、フェミニズム運動、そしてもちろん戦争への虚しさなどのテーマが絡んでくるが、基本的には活劇として楽しんでいいと思う。
各所で大絶賛の本書だが、設定は古今のマンガ・アニメ作品を巧く流用しており、目新しさはない。冒頭の「戦うか、死ぬか」のシーンは「富岡義勇(鬼滅の刃)」。ヒロインであるロシア人少女セラフィマの仇であり狙撃の師匠でもある美貌の女教官は「バラライカ(ブラック・ラグーン)」。身寄りの無い不幸な少女たちを集めて、冷酷な殺人者(狙撃手)として育てるのは「GUNSLINGER GIRL」。狙撃手としての才能を持ち一癖も二癖もある個性的な少女たちが切磋琢磨し合い、戦友となっていくのは「ストライク・ウィッチーズ」。ラストシーンは「機動戦士ガンダム 第08MS小隊」。本書はアガサ・クリスティ大賞を審査員全員が満点をつけて受賞したが、審査員たちは老人が多いだろう。彼らは、上述したマンガ・アニメ作品を読んだり観たりした事があるのだろうか?

走ることについて語るときに僕の語ること(村上春樹)、211217読了★★★★★ あの有名な小説家である村上春樹氏のエッセイを読んでみた。結論から書くと、最高に面白かった。再読すると思う。村上氏はその墓標に「作家にしてランナー」と刻んで欲しいほどランニングを愛しており、フルマラソンにほぼ毎年出場しているとのこと。ひたすら走り、ひたすら小説を書くというシンプルで修行僧のような生活を送っているようだ。村上春樹といえば、世の熱狂的な「ハルキスト」なる者たちに持ち上げられてチヤホヤされる鼻持ちならないオサレ流行作家だと思っていたら、その実像は正反対だった。ひたすにストイックにランニングを小説仕事のために活用し、プロとして自らを高めている。ランナーとして思うことを語る本作は、ランナーであるわたしと共感することばかりで、その共感がプロの文章力で書かれているのだから、最高に面白いと感じるのは当然かも知れない。また、村上氏はストイックでありながらランニング後のビールを楽しみにしていたり、毎日走るのは本当は嫌だったり、老いに悩んだりと人間臭い魅力も大いに見せる人物だった。この作品で村上春樹のファンになってしまった気がする。ちなみに、氏の月間走行距離は300kmほど。この距離は異常とも言える(フルマラソン完走には月間100kmで十分とされている)。ちなみに、わたしの先月の走行距離は45kmほどだった。

嫌われた監督(鈴木忠平)、211223読了★★★★★ 中日ドラゴンズを何度もリーグ優勝に導き、ついには日本一とした異端の将を描くスポーツノンフィクション。プロ野球を知らなくても読むのには困らないと各所で語られているが、やはり基本的な野球のルールは知らないとつまらないだろうとは思う。とはいえ、本書は野球についての本ではなく、変わり者でクールで憎悪を引き受けても蛙の面に水の落合博満氏ついての本であることは確かだった。プロ野球を知らない方でも顔は知っているだろうし、頭は良いが嫌な奴だという認識が殆どであろう落合。本書は駆け出しのスポーツ新聞記者が落合に密着取材することで、そのニンゲン性をじわりじわりと暴いていく。一言で言うと、落合博満アメリカ人なのだ。契約書を経典とする徹底的なプロフェッショナル仕事人で、感情や義理人情を蛇蝎のごとく嫌って排除していく。そして、きっちりと結果を残してしっかりと金を懐に入れる。これはアメリカ人の仕事スタイルであり、日本人には拒絶反応が強いだろう。日本人には、人と人の間に必ず介在する「好きか嫌いか」での判断が最重要視されているからね。ただし、令和の御代では日本でもアメリカ人の仕事スタイルは、だんだんと浸透しつつはある。落合にほんの少しの愛嬌とトーク力とコミュニケーション力があれば「異端の将」ではなく「名将」となっただろう。あえて、語らず。いつも俯いて歩き、わざとチーム内から孤立する、ひねくれ者の寂しがり屋。そんな落合は記者につぶやく。「いいんだ、俺は嫌われても」と。どんなに世間から嫌われても、最後には球団トップから嫌われても落合氏が潰れない理由はただ1つ。「かあちゃん」の存在だ。かあちゃんとは母親ではなく、妻の落合信子氏だ。そう、あのアクの強いお世辞にも美しいとは言えない落合の奥さん。ひねくれ者の寂しがり屋には、最高のパートナが存在した。